最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)455号 判決 1966年10月27日
上告人(第一審原告・四〇年(ネ)四〇四号控訴人・七四〇号被控訴人) 東亜自動車株式会社
右訴訟代理人弁護士 伊藤静男
被上告人(第一審被告・四〇四号被控訴人・七四〇号控訴人) 洪東淳
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人伊藤静男の上告理由について。
一旦成立した確定判決の執行力は、そこに表示されている請求権が消滅した場合に請求異議の原因となるは格別、その後に成立した債務名義又は和解により当然消滅するものではないと解するのが相当である。従って、所論の点に関する原判決(その引用する第一審判決を含む。)の判断は正当であり、原判決には所論違法はない。論旨は独自の見解であって、採用できない<以下省略>
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)
上告代理人伊藤静男の上告理由
第一点原判決には経験法則に違背した違法がある。名古屋地方裁判所昭和三一年(ワ)第六七三号事件の判決の執行力は全面的に失効していると判断するのが経験法則上正当であると信ずる。即ち、
一、右判決確定後の昭和三八年一〇月一〇日名古屋簡易裁判所に於てなされた裁判上の和解条項は、
(一) 申立人両名は別紙目録記載の建物が相手方の所有であることを確認し昭和三九年四月三〇日限り相手方に明渡すこと。
(二) 申立人両名は相手方に対し昭和三八年一〇月二一日限前項記載建物の使用損害金として連帯して金二〇万円也を支払うこと。
(三) 本件和解申立費用は各自弁とする。
<目録建物省略>
の三項目よりなっている。
二、而して、右和解調書に基き被上告人はその後上告人に対し強制執行をなしてきているのであり右和解調書記載の具体的内容、裁判上の和解調書を作成した事実並にこれに基き強制執行をなしてきた事実からすれば右和解はそれ以前に確定していた前述の判決の執行力を失効せしめ新な独立の契約を締結したものであることは明らかである。然らざれば相互に抵触する二つの執行力をもつ裁判調書が同時に有効に存在するという不合理が発生するのである。
三、原判決理由の如く単に明渡期限を猶余する程度の趣旨であれば確定判決が既にあったのにわざわざ前述記載の如き「昭和三九年四月三〇日限り明渡すこと」というが如き裁判上の和解調書迄作成する筈もない。
要するに上告人、被上告人、訴外鳥山栄吉三者に於て協議和解し、その和解条項をわざわざ裁判上の和解に迄したのは、それ以前の確定判決の執行力を全面的に失効せしめ、新な当事者間の契約をしたからである。
而して、新な和解内容は前の判決と内容に於て全面的に抵触するからである。
即ち、前の裁判を全面的に変更したからである。
前の確定判決を有効とするならば該判決と抵触する内容の民法上の和解及び裁判上の和解すること自体不合理であるし経験則上する筈もない。前の判決を当事者で無効とし全面的に失効せしめたからこそこれと抵触する後の和解そして裁判上の和解がなしえたのであり事実そうしたものである。
四、而して、当事者で前の確定判決を無効とすることに合意して新な民法上の和解をなし、次で裁判上の和解をなしたのであるが裁判上の和解は当事者の表示の誤りで無効であると合意すれば残るは民法上の当事者の和解のみである。
而してこの和解に就ては現在の処執行力ある判決なり和解調書が存在しないのである。
上告人が任意に応じない限り訴訟を起して判決を得て後強制執行をなしうる筋合である。
大要叙上の次第であり原判決には事実判断、法律判断、に於て著しく経験法則に違背する違法あるものと謂わねばならない。